条文は4つ。順番に読む
賃貸の修繕をめぐる話は、民法の4つの条文でほぼ説明がつきます。606条(誰の義務か)→ 607条の2(動かないときどうするか)→ 608条(払った費用をどうするか)→ 611条(賃料はどうなるか)。この順番で読むと、自分がいまどこにいるかが分かります。
606条:誰の義務か
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
民法第606条第1項
606条を分けて読む
| 部分 | 意味 |
|---|---|
| 賃貸人は…修繕をする義務を負う | 原則として、修繕は貸主の義務 |
| 使用及び収益に必要な | 住むために必要な範囲。どこまでかは事実関係による |
| 賃借人の責めに帰すべき事由によって | 借主に原因がある場合 |
| この限りでない | その場合は貸主の義務ではない |
「原則は貸主、ただし借主に原因があれば別」という構造です。
害虫・害獣で争いになるのは、ほぼ「賃借人の責めに帰すべき事由」にあたるかどうかです。建物のすき間からの侵入なのか、住み方によるものなのか。原因から考える表はトップページに置いています。
同条第2項は「賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない」としています。貸主が駆除や修繕を行うと言ってきた場合、借主はそれを拒めないという規定です。
607条の2:貸主が動かないとき
賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。二 急迫の事情があるとき。
民法第607条の2
→ 図は横にスクロールできます
- 通知したのに動かない「賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し」が起点。通知の記録が要ります。
- 貸主が知っていたのに動かない「賃貸人がその旨を知った」場合も含まれます。
- 急迫の事情がある内容は事実関係によります。本サイトでは個別の判断を示しません。
一号は「通知」または「貸主が知っていたこと」が前提です。だから記録を残します。
「相当の期間」がどれくらいかは条文に書かれていません。状況によります。だからこそ、いつ通知して、いつまでに何を求めたかを記録しておく必要があります。
対応の相場を知っておく
負担者が決まったあとの手配に使えます。作業範囲・費用は各社の公式サイトでご確認ください。
- 費用・対応エリア・保証内容は各社公式サイトでご確認ください
- 作業の可否は建物と契約内容によります
- 費用の負担者は賃貸借契約の内容によります
608条:払った費用の扱い
賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。
民法第608条第1項
読むべきは「賃貸人の負担に属する」という条件です。払ったから請求できる、ではありません。もともと貸主の負担にあたるものを払った場合に、請求できるという構造です。
この条文を使う前に確かめること
そもそも貸主の負担にあたるか
通知したか
金額が妥当か
記録があるか
611条:賃料の減額
賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
民法第611条第1項
2020年の改正で「減額される」という表現になりました。以前の「減額を請求することができる」から変わっています。
ただし適用の条件は厳しく読まれます。「使用及び収益をすることができなくなった」といえる状態かどうか、「その割合」がどれくらいかは、事実関係によります。害虫が出たことがただちにこの条文に当てはまるという意味ではありません。本サイトでは個別の判断は示しません。
善管注意義務との関係
借主の側にも義務があります。民法第400条は「善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない」としています。いわゆる善管注意義務です。
害虫・害獣の文脈では、「気づいたのに放置した」ことが問題になりうるという形で関わってきます。発見したら早めに伝える、というのは実務上の話であると同時に、この義務にも関わります。
借主の側でやっておくこと
- 発見したら早めに伝える(放置しない)
- 生ゴミ・食品の管理をする
- 貸主が修繕に来るときは受け入れる(606条2項)
- 自分で改造・穴あけをしない(別の問題になります)
- 記録を残す
この整理の限界
本サイトは条文の構造を整理しているだけで、個別の事案について判断するものではありません。「賃借人の責めに帰すべき事由」にあたるか、「相当の期間」がどれくらいか、「急迫の事情」があるかは、いずれも事実関係によって判断されます。金額が大きい場合や、話がまとまらない場合は、消費生活センターまたは法律の専門家にご相談ください。
つまずくところ
608条だけを見て請求する
「賃貸人の負担に属する」ことが前提です。606条の判断が先です。
通知せずに修繕する
607条の2の一号は通知を起点にしています。記録が要ります。
611条をすぐ持ち出す
「使用及び収益をすることができなくなった」といえる状態かどうかは事実関係によります。
気づいたのに放置する
善管注意義務に関わります。早めに伝えるほうが、結果として有利になります。
条文だけで結論を出す
個別の判断は事実関係によります。迷う場合は専門家に相談してください。
よくある疑問
修繕は誰の義務ですか。
貸主が対応してくれない場合は。
かかった費用は請求できますか。
賃料は下がりますか。
放置するとどうなりますか。
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一次情報の確認先
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